ここ数回は、在宅ワークのクオリティを上げるための方法を考えてきたわけですが、そもそも在宅ワークって良いんでしょうか?最近は、在宅ワークとオフィスワークを選べるという勤務形態もあると思います。
コロナ禍を経て、多くの企業や組織が在宅勤務(リモートワーク)とオフィス勤務のハイブリッド型の働き方を模索しています。「どのような働き方が最も効率的なのか」という問いに対する答えを探るため、今回は生産性・創造性・ストレスの3つの観点から、在宅勤務とオフィス勤務の違いを示す国内外の研究を紹介します。
生産性 在宅勤務は本当に生産性を下げるのか?
海外の研究例 在宅勤務で13%の生産性向上
在宅勤務の生産性に関する研究結果は一様ではありませんが、ポジティブな結果を示す研究は少なくありません。代表的な例として、スタンフォード大学による実験があります。この実験では、コールセンター社員を在宅勤務組と出社勤務組にランダムに分け、9か月間追跡しました。
結果は驚くべきもので、在宅勤務組の生産性は13%向上したのです。この内訳をさらに詳細に分析すると
- 自宅では休憩や欠勤が減り労働時間が延びた効果が約9%
- オフィスより静かな環境で1分あたりの処理件数が増えた効果が約4%
さらに、在宅勤務者は仕事の満足度が上昇し、離職率も低下したことが確認されています。
また、世界27か国を対象とした調査では、従業員の自己申告ベースで「在宅勤務の生産性はコロナ前の予想より0.8~9.8%高かった」と報告されています。イギリスの研究でも、コロナ後に在宅日数が増えた労働者ほど自宅での生産性向上を感じていたという結果が出ています。総じて多くの労働者は在宅でも生産性は維持または向上すると感じていることがデータから示唆されます。
日本の状況 なぜ日本では生産性低下の声が多いのか
しかし、日本では海外と比較して生産性低下を実感する声があることも事実です。2020年のレノボ社の国際調査によれば、「在宅勤務で生産性が下がった」と答えた割合が世界平均13%に対し日本は40%と突出して高く、10か国中最下位でした。
みずほ銀行の分析によると、日本における生産性低下の原因として以下が挙げられています
- コミュニケーション不足 情報共有や意思疎通の難しさ
- 家庭環境の問題 適切な作業環境、ネット環境、騒音などの課題
興味深いことに、これらの要因を制御すると、テレワーク自体は生産性にマイナスではなくプラスに働く可能性も示されています。つまり、適切な環境とコミュニケーション手段が確保できれば、日本でも在宅勤務の生産性はむしろ向上する可能性があるのです。
業務内容による差異〜単調作業と創造的作業の違い〜
研究からは、業務の種類によって在宅勤務の効果に差があることも明らかになっています。具体的には
- 単調な定型作業 ⇨ オフィス環境の方が効率が良い
- 創造的な課題 ⇨ 在宅環境の方が生産性が高まる
在宅勤務とオフィス勤務の最適なバランスを検討する際には、業務の性質を考慮に入れる必要があることを示唆しています。
創造性 コラボレーションとアイデア発想への影響
チーム共同作業 対面の優位性
創造的なアイデア創出、特にチームでのブレインストーミングについては、オンラインよりも対面の方が優れている可能性が高いことが研究で示されています。
コロンビア大学・スタンフォード大学の研究では、実験参加者をビデオ会議と対面会議のグループに分けて新規アイデア発想の数を比較しました。その結果、ビデオ会議では対面よりも少ないアイデアしか生まれませんでした。
研究者らの分析によれば、オンライン会議中は画面上の限られた範囲に注意が集中しがちで視野が狭まり、発想が制限されるためだと考えられています。このことは、チームでの創造的なディスカッションやブレインストーミングは、可能であれば対面で行う方が効果的である可能性を示唆しています。
ただし、発想されたアイデアの中から最良の案を選ぶ作業については、リモートと対面で大きな差は見られませんでした(むしろわずかにビデオ会議組の方が効率的だったというデータもあります)。このように、創造的コラボレーションの量の面では対面有利でも、質の評価や選別の面では在宅でも遜色ないことが示唆されています。
個人の創造性 在宅環境の静寂がもたらす集中力
一方、個人レベルの創造的作業においては在宅勤務が有利なケースも多々あります。上述のように共同のブレストでは対面優位でしたが、別の実験では各自で行う創造課題で在宅環境の方が成果が上がったことが確認されています。
オフィスの雑音や同僚からの干渉がない自宅環境では、集中力が高まり新しいアイデアを生みやすくなる可能性があります。実際、日本の調査でもテレワーク経験者から「創造性が求められる仕事がやりやすくなった」との声が多く上がっており、在宅勤務による創造性発揮のしやすさが報告されています。
研究者は、在宅勤務によって仕事の裁量・自律性が高まりストレスが低減することが創造性の発揮を後押しすると分析しています。したがって、創造的仕事に関してはチームでアイデアを出す場面ではオフィスの強みがあるものの、個人で考えたり作り込む工程では在宅のメリットも大きいといえます。
ストレス 通勤負担の解消と新たな心理的課題
ストレス軽減効果 通勤からの解放がもたらすもの
在宅勤務はストレス面にも大きな影響を及ぼします。総じて、通勤が不要になるメリットなどからストレスは減少すると感じる人が多いようです。
米国の調査では、在宅勤務への移行後に全体的な生活ストレスが有意に低下したことが報告されています。自由に使える時間が増え自己裁量が広がった結果、「自分の時間の使い方をコントロールできるようになった」と感じる人が多く、通勤ストレスの消失や睡眠時間の確保によって「毎朝のストレスがほとんどなくなった」という声も多数ありました。
こうした傾向は日本でも見られ、経済産業研究所の分析でも在宅勤務者は「仕事のストレスが低下した」と感じる割合が高いことが確認されています。ストレス軽減は従業員の幸福度や仕事満足度を高める要因となり、内閣府の調査分析でもテレワーク導入は生活と仕事の満足度を有意に向上させると示唆されています。
新たなストレス要因 ワークライフバランスの境界の曖昧化
ただし、在宅勤務には新たなストレス要因も存在します。職場と生活の境界が曖昧になることで、「常に仕事が頭から離れない」状態に陥る人もいます。
ある調査では、パンデミック下で在宅勤務者の47%が仕事と私生活の境界ぼやけに不安を感じていたことが報告されました。実際、リモートワーク期間中に「労働時間の増加」や「燃え尽き症候群(バーンアウト)の悪化」を感じたとの回答も多く、特に若年層や女性で顕著でした。
自宅で業務を行うと仕事の区切りがつけにくく、長時間労働に陥りやすいとの指摘は以前からあります。また、人によっては在宅勤務で運動不足や睡眠リズムの乱れが生じ、心身の健康面で課題が増えたとのデータもあります。
ある研究では在宅勤務開始後に「食生活の乱れ(過食傾向)」「睡眠障害(寝付きにくい、寝過ぎてしまう)」「気分の落ち込み」といった健康上の問題が有意に増加したことが示されています。このように、在宅勤務は通勤ストレスを減らす一方で、セルフマネジメントや健康管理の負担が増える側面も持ち合わせています。
まとめ〜効率向上のカギはバランスとパーソナライズ〜
在宅勤務とオフィス勤務の効率面での違いを、生産性・創造性・ストレスという観点から見てきました。研究データが示すように、「どちらが絶対的に優れている」というシンプルな答えはなく、業務内容や個人の状況によって最適な働き方は異なります。
以上の内容を全体的に捉えれば、在宅勤務は通勤時間の削減や静かな作業環境によって生産性向上やストレス軽減につながりやすい一方、対面コミュニケーションの欠如が協働作業の効率や創造性にマイナスとなる場合があるという点にまとめられそうです。
ですので、ハイブリッド型で在宅とオフィス勤務を選べる場合は、週に数日は出勤し、オフィスワークで向いた作業をその日に集中するというアプローチ良いですね。ただ、その比率は状況によります。
最終的には、自分自身の業務内容や個人の特性に合わせた働き方をデザインしていくことが重要です。「生産性」「創造性」「ストレス」のバランスを考慮しながら、自分だけの最適な働き方を見つける旅を続けていきましょう。
参考文献・出典:
- 久米功一・鶴光太郎・川上淳之「在宅勤務で個人の生産性はどう変わるか」RIETI Discussion Paper 23-J-044, 2023
- 小寺信也「テレワークで満足度・生産性は向上するか ―生産性向上に向けて必要な要因の考察」みずほリポート, 2020
- Nicholas Bloom et al., “Does Working from Home Work? Evidence from a Chinese Experiment,” Quarterly Journal of Economics 130(1), 2015
- E. Glenn Dutcher, “The effects of telecommuting on productivity: An experimental examination. The role of dull and creative tasks,” J. Econ. Behavior & Org. 84(1), 2012
- Melanie S. Brucks & Jonathan Levav, “Virtual communication curbs creative idea generation,” Nature 605, 2022
- WFH Research, “Working from Home & Burnout,” 2024
- The Conference Board, “Remote Workers Struggle with Work-Life Boundaries,” Press Release 2022
- Lenovo Japan 「国際調査 テクノロジーと働き方の進化」2020

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